Stride and Cadence
脂肪を燃やしたいなら、楽に運動しましょう!
2025-01-10

呼吸交換比(RER)とFatMax




はじめに


2025 年の新しい年が始まりました。新年の三大決意といえば、禁酒・禁煙・ダイエットですね。多くの人が決意を守るためにジムの会員権を購入し、運動を始めます。一生懸命に運動します。息が切れるほど頑張ります。お腹が空いても我慢します。そして体脂肪測定器に乗ります。しかし、体脂肪率に大きな変化は見られません。落胆します。新年の目標が三日坊主で終わってしまう瞬間です。そしてこのルーティンは毎年繰り返されます。

ダイエットのために運動をする方は多いですが、多くの人は努力しているにもかかわらず、運動後にお腹が空くだけで脂肪がなかなか減らないと感じています。その理由は「呼吸交換比(RER)」、そしてそれに伴う脂肪燃焼率の概念から説明することができます。

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呼吸交換比とは?


呼吸交換比(Respiratory Exchange Ratio, RER)とは、呼吸で排出される二酸化炭素(VCO₂)と吸収される酸素(VO₂)の比率(VCO₂/VO₂)です。通常、RER は 0.7〜1.0 の間にあります。安静時はおよそ 0.8 で、身体的・心理的要因によって変動し、運動強度が上がると 1 以上にもなります。

RER は、運動時に炭水化物と脂肪のどちらが主に使われているかを間接的に示してくれます。以下は、グルコースと脂肪酸が代謝される際の化学反応式です。

  • グルコース:C₆H₁₂O₆ + 6O₂ → 6CO₂ + 6H₂O(RER = 1.0)
  • 脂肪酸(パルミチン酸):C₁₆H₃₂O₂ + 23O₂ → 16CO₂ + 16H₂O(RER = 0.70)

グルコースの場合、酸素 6 分子で二酸化炭素 6 分子が発生するため RER は 1、脂肪酸の場合は酸素 23 分子で二酸化炭素 16 分子が発生し、RER は約 0.7 となります。つまり、理論上は RER を見ることで、休息時または運動時のエネルギー源の割合(炭水化物 vs 脂肪)を推定できます。

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ちなみに、上記の式で使用されている脂肪酸は、動物によく見られる飽和脂肪酸「パルミチン酸」です。


運動強度とFatMax


強度の高い運動をすると呼吸が荒くなり、二酸化炭素の排出量が増え、RER も高くなります。炭水化物の代謝率も上がります。一方、軽い運動では呼吸が楽で、二酸化炭素の排出量や RER、炭水化物の代謝率は下がります。運動強度が上がるほど、脂肪の利用は減り、炭水化物の利用が増えるのです。

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上のグラフのように、激しく運動すればカロリー消費量は多くなりますが、主に使われるのは炭水化物で、体脂肪はなかなか減りません。逆に、脂肪の燃焼量が最大になるのは軽い運動強度のときです。この脂肪燃焼効率が最も高くなる運動強度のことを「FatMax(最大脂肪燃焼ゾーン)」と呼び、ここで運動するには軽く運動する必要があります。

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FatMaxとLT1


FatMax の強度を正確に把握する最善の方法は、呼吸データを収集して RER を直接測定することです。しかしそれが難しい場合は、代わりに LT1(第 1 乳酸閾値)以下の有酸素代謝ゾーンを利用できます。これと FatMax は大きく重なっているためです。

LT1 以下の運動ゾーンでは、循環器と呼吸器、筋肉の酸素利用能力が高まり、酸素を使った代謝効率が高くなります。このため、一般的にこのゾーンでは RER が低く、脂肪の代謝率が高いのです。

研究によれば、FatMax の上限は LT1 よりもやや低い強度で現れるとされています。LT1 と同程度の強度ではカロリー消費量は高いものの、脂肪の代謝効率は FatMax よりも下がります。したがって、脂肪燃焼を最大化したいなら、LT1 よりも低い、疲れにくく長時間続けられる、呼吸が楽な運動強度が最も適しています。

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理想的には FatMax の診断を受けるのがベストですが、難しい場合は Zone 1〜2 の軽い有酸素運動(LSD =ロング・スロー・ディスタンスや軽いジョギングなど)を目安にしても良いでしょう。


おわりに


私たちの身体は複雑なシステムで動いているため、RER だけが脂肪燃焼率を決めるわけではありません。性別、食生活、トレーニングの経験や状態などさまざまな要因で、同じ運動強度でも代謝の割合は変わります。

しかし、これだけは確かです。どんな条件であれ、脂肪燃焼を最大化したいなら「楽に呼吸できる」状態が必要です。だからこそ、無理せず、気楽に運動を続けてみてください。

もちろん、運動によって消費されるカロリーは食事で摂取するカロリーに比べて微々たるものです。フライドチキン 1 羽のカロリーはフルマラソンと同等です。食べない方が手っ取り早いかもしれません。でも、食べないだけでは健康にはなれません。ダイエット効果はあっても、代謝機能の根本的な改善には限界があります。

だからこそ、ダイエットのためには運動が必要です。そして、無理せず、気軽に続けることが大切です。無理はしなくても、継続が必要です。ダイエットに近道はありません。あなたの新年の目標が実現することを願っています。


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